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【インタビュー】新島で得た感覚を絵の中で表現したい


2022/09/23

東京都出身、湯本コウスケさん(34歳)の場合

革職人として働きながら、画家、七宝作家として精力的に活動している湯本コウスケさん。自身の創作活動に多大な影響を与えたという、湯本さんの新島体験とは?

新島での暮らし

新島に出会って、世界がひっくり返った

新島に来たのは2018年のことで、HostelNABLAの運営スタッフとして半年間暮らしました。新島に来ることになったのは本当に偶然なんですよ。もともと絵を描く仕事がしたくて、アニメの背景美術専門の制作会社で働いた後、日本画を学びたくて武蔵野美大に通ったんです。それで卒業したらどこか離島に行きたいなと思って、情報を集めるためにアイランダーというイベントに足を運びました。

そこでたまたま新島のことを知って、会場でゲストハウスHostelNABLAのオーナー・梅田久美さんと偶然知り合ったんです。それまで新島のことは全く知らなかったんですが、実家の調布から飛行機で30分くらいで行けると聞いて、「家からそんなに近いんだ、いいじゃん!」という感じで。その後、NABLAでスタッフを探していると知り、応募してみたという経緯です。

いざ新島に来てみると、ゲストハウスは毎日いろいろな人と触れ合って、とにかく忙しかったです。特にピーク時の新島はお客さんが本当に多くて、人にもまれて体調を崩したこともありました。それでも僕にとって新島での半年間は、新島以前と以後では描く絵が全く変わってしまうくらい、ものの見方や捉え方やいろんなものがひっくり返るくらいの経験でした。

「絵で自然を表現したい」という思いはずっとあって、特に色の滲みで世界を表現したいと思っていたんです。でも新島へ行って初めて、自然ってどういうものなのかわかったというか。言葉にするのがむずかしいんですが、表現するなら畏敬の念ということだと思います。

新島は海もきれいだし、景色もきれい。でも、ただきれいなだけじゃない自然のすごさ、怖さ、激しさを感じることが多かったんですよね。

ただただ圧倒された夕陽の色彩

新島にいる間は、毎日前浜へ夕陽を見に行っていました。HostelNABLAは前浜から歩いてすぐのところにあるので、ちょっとでも時間をもらえそうなときは「夕陽がきれいそうだから、行ってきてもいい?」とお願いして仕事を抜けさせてもらったりして。

夕陽が海に落ちる前浜は、夕方になると僕だけじゃなくいろんなスポットで夕陽を見る人がたくさんいました。特にボロサン(前浜の古い桟橋。ボロい桟橋で通称ボロサン)あたりは人気なので、それ以外の人のいない場所を見つけて、座りながらひとりでゆっくり夕陽を楽しむのが日課でした。

昼間の青い海も好きなんですけど、そこで見た夕陽の色は格別で。本当に、ビックリするような色ですよね。あの色はいったいなんなんでしょう。感動すらしないというか、絶句に近いような、強烈な色彩。夕陽そのものだけじゃなく、夕陽に輝く海の色、浜辺の砂の色、ボロサンにあたる光と影のコントラスト……自然が生み出す色の激しさに、ただただ圧倒される時間でした。

ほかにも、新島には靴を抜いで裸足にならないと上ってはいけない大三王神社とか、人が軽はずみに近づいてはいけない神聖な場所が暮らしのすぐ近くにいくつもあって、その場の特別な空気感を島の人はみんな感じているんですよね。

僕の場合は、和田浜がものすごく怖かった。若郷の淡井浦にも人魚伝説などいろんな逸話がありますけど、僕は和田浜のほうが感じるものがあって。なぜだかわからないけれど、あそこに行ったら帰れないような気がして、なんともいえない怖さが湧き上がってくるんですよ。

そういう僕の中の「和田浜、怖いな」という感覚を、島の人たちも同じように感じていることがわかって、「あ、これは本当にある感覚なんだ」と実感できた。それまで漠然と感じていた自分の中の本能のようなものが、新島に来たことで研ぎ澄まされて確信に変わったというような。そういう感覚が刺さったんでしょうね。

それ以来、「自然の中にある、表現できないものを表現したい」と考えるようになりました。それは新島にいて、島の人たちの感覚にひっぱられたおかげかなと。新島で、絵を描く感性をもらったと僕は思っています。

新島滞在の最後にNABLAへ贈った3部作『空と海と砂浜と』
NABLAでは仕事のかたわら、お客さんの似顔絵を描いて贈ったことも

新島で得たもの

朝の羽伏、夕暮れの前浜

新島にいたのは短い期間でしたが、自分の絵がこんなに変わるとは正直思ってもいませんでした。絵に対する向き合い方もガラッと変わりましたね。島で感じた自然に対する感覚を早く絵にしなきゃいけないという思いにかられて、島にいる間も東京に戻った後もずっと絵を描き続けていました。

そんななかで「新島の海を描いてほしい」と注文を受け、羽伏浦のキラキラと反射する海を描いたのが「Niijima Blue」です。朝の明るい輝きと海の濃淡、そして自分が新島の海に入ったときの感覚を思い浮かべながら描きました。

細やかな泡と波の模様、繊細な色のグラデーションが印象的な『Niijima Bue』

そして今回新たに描きおろしたのが「Niijima Twilight」。記憶の中にある夕方の海そのままの風景を、鮮やかに表現したいなと思って描きました。朝の海が「入る海」だとすると、夕陽の海は「見る海」。強烈な光で水面が見えない部分があったり、陰影がくっきりと出たり、自分では意識していませんでしたが、記憶をたどる中でダイナミックな表情が出たなと思います。

前浜の夕景をドラマチックに描いた『Niijima Twilight』

抽象画は見る人によって見え方が違うので、人によっては僕の絵を見て「ボードの上から見た海だ」という人や「水の中から見た景色だ」という人もいるかもしれない。見る人が自分の絵を決めてくれればいいという気持ちなので、僕の絵を見ていろいろな景色をイメージしてくれたら嬉しいですね。

最近では新島の海から作った塩のパッケージ用に絵を描かせてもらって、すごく楽しかったです。自分の作品って、自分が見てきたものを外に出す作業なんですよ。でも仕事として依頼されると、外から新しいものが自分の中に入ってくることで自分には全くなかった別のものができてくる。やっていて面白いですね。それに、こういう形で新島に関われるのも嬉しいですし。

新島の海から作った天然塩。絵はクラウドファンディングのリターン用に描き下ろした(非売品)

新島に住んでいたのは短い間でしたが、島にいるうちに東京で生活していた自分がどんどん健やかになっていく感覚がありました。毒が抜ける、と言ってもいいかもしれない。逆に新島から東京に戻ると「空気が汚すぎて、ここにいられない」みたいな気持ちになります。オーバーかもしれないけど、全てが浄化されていくような感じがすごいんですよ。また、あの感覚を味わいに行きたいなと思っています。

<湯本コウスケ Profile>

1988年5月3日生まれ、東京都出身。東京デザイン専門学校イラストレーション科を卒業後、スタジオワイエス(アニメ背景会社)に勤務。その後、武蔵野美術大学の通信教育で日本画を学ぶ。2018年5月~11月に新島のゲストハウス HostelNABLA勤務。離島後は中学校の非常勤講師を勤め、2021年4月より革製品縫製職人として働きながら制作活動を続けている。作品はイラスト、風景画、日本画の経験を経て、現在は抽象画が中心。滲みやムラ、素材感などの自然に生まれた質感で、誰の心にもある、懐かしくて忘れられない記憶の何処かの表現を追求している。

2022年9月、『Niijima Blue』に続く絵てぬぐいシリーズ第2弾『Niijima Twilight』をリリース。同年12月2~4日には三鷹のギャラリーPHOTO YELLにて絵画展『煌々と』を開催予定。

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