Column
コラム
【特集】くらしを支える「島の大工さん」
2024/03/15
就職
東京から行ける観光の島として知られる新島・式根島ですが、産業構造でいうと最も多いのは建設業です。新島村の統計資料「データにいじま2022」によると、建設業の占める割合は16.5%で第1位。公共工事から民家の改修まで、島の中ではどこかで何かの工事が進行しています。その一方で建設業界の人材不足は慢性化し、「地元の大工さんが空くまでじっと待つ」というのは、新島ではごく当たり前になっています。
そんななか新風を巻き起こしているのが、東京・練馬に本社を構える建設会社のGrowRoom(グロールーム)。2018年頃から島内の新築物件やリフォーム工事を手がけ、島では「グローさん」と呼ばれ信頼を得ています。また建築だけでなく、飲食店『魚肴なぎさ』やサウナ&ゲストハウス『エトセトラ』を開業し、新スポットの仕掛け人としても注目されています。
東京と新島の2拠点生活を送りながら、島の工事を手がけるGrowRoom代表の高橋豊さんに、島で働くことについてお話をうかがいました。
サーフィン仲間の家をリフォームする……だけのはずが⁉
東京・練馬を拠点に、首都圏で木造の注文住宅やリフォームを手がけるGrowRoom。特に都内のマンションリフォームを数多く手がけてきたといいますが、そんなGrowRoomが地縁のない新島で仕事をするようになったのは、知人からの相談がきっかけだったとか。
「もともとサーフィンが好きで、よく千葉の海に波乗りに行っていたんです。その海で仲良くなったサーフィン仲間の一人が新島出身で、ときどき新島にも遊びに来ていました。その友人に子どもが生まれ、子育てを機に新島に帰ることになって。すぐに住める家がないから実家のリフォームをしてくれないか、と依頼されたのが6年ほど前のことです。
ちょうどその頃に新島で工務店が1軒解散して、大工さんがいない時期だったらしくて。部屋も食事も用意するから来てほしいと言われ、友だちが困っているなら力になりたいし、海にも行けるからまあいいか、と軽いノリで来ちゃいました(笑)。
それで2か月ほど新島に滞在したんですが、工事が終わってそろそろ東京に戻ろうかというときに地元の建設会社から『大工がいなくて困っているから、うちの仕事をやってくれないか』と声をかけられました。それで新築を手がけることになったんですが、工事中に今度は「リフォームの仕事があるよ」と話が来て。工事しては次、終わってはまた次という感じで仕事が入ってきたんです。
あまりに仕事が途切れないので、建設会社の方から「新島に拠点を置いたらどうか?」と勧められ、島の空き家を借りて住み始めたのが5年前。それでも、当時はまさかこんなに長く島にいるとは思ってもいませんでした」(高橋)
1軒1軒に物語がある。だから島の家はおもしろい
現在は東京と新島を行き来する高橋さんのほかに、社員の大工さん2名が島に常駐。現場に合わせて応援の職人を呼び寄せ、共同生活を送りながら工事を請け負っています。「社員を移住させたつもりはなくて、島に行ったっきりになっちゃった」と高橋さんは笑いますが、その「行ったっきり」になっている社員の一人が、大川洋介さんです。
「ずっと東京の現場で働いていたのですが、3年前に新島に来て、それ以来ずっと島に住んでいます。初めて来たのはちょうど冬の頃で、あまりの風の強さに驚きましたね。でも、島なら趣味の釣りがしょっちゅうできますし、明日葉やタラの芽などが採れる場所を見つけたので、休みの朝に採りに行ったりもしています。それを天ぷらにして、昼から飲んで寝るのが最高ですね。
島の仕事はすごく面白いです。東京だとマンションのリフォーム工事が多いので、流れ作業で同じ仕事をくり返すことになります。大工さんによって専門や担当が決まっているので、完全な分業制。自分もむこうでは設備担当です。
でも島では大工や設備屋がやらない仕事をやることも多くて。大変ではありますが、やりがいはあります。新島の家は1軒1軒本当に違うし、家主さんとの接点が多いので関係性もできてくる。物語があるというんでしょうか。それがおもしろくてやっているところはありますね」(大川)
高橋さんいわく、島の工事は「予想外」との戦いだといいます。船が欠航して建築資材が届かない、船の乗組員が足りないから荷物を運んでもらえないといった輸送の問題はもちろん、新島で採れる天然石・コーガ石が建材に使われていたり、増改築をくり返して複雑な構造になっていたりと、島独特の家に翻弄されることもしばしば。
「床をはがしてみたら別の部品が必要だということが判明して、あわてて東京のスタッフにホームセンターに走ってもらって飛行機に積んで、なんとか間に合わせたことも。島ですぐに調達できないので、前もって入念に準備するんですが、それでも開けてみないとわからないことは多いですね。
でも、ここまで島の人が工事に困っているとは思っていなかったんです。新島はちょうど30~40年ほど前に観光ブームがきて、一斉に家を増築したり民宿を作ったりした時期があったんですよね。それで今、建物の多くがちょうど手入れの必要な時期にさしかかっている。工事のご相談が多いのはそういうことかなと。
島では親戚の工務店に工事を頼むなど、独特のしきたりがあります。僕はそこに分け入りたいわけではないし、営業をしたことも一度もありません。お客さんから相談されて、見積もりを出して、この値段でOKだったら工事しましょうということで、お客さんの判断に任せています。工事費も見積もりの範囲内におさまるようにしますし、追加の工事が必要になった場合はその都度説明して納得いただけるようにしています。安心して依頼してもらえたらいいなという気持ちでやっていますね」(高橋さん)
大好きなこの島で、活躍できる人を増やしたい
「新島には自分の好きなことが全部ある。いずれは住所を移したい」とすっかり新島ぐらしが気に入っている高橋さんですが、GrowRoomでは現在、新島で働いてくれる大工さんを募集しています。経験不問ですが、島の現場は柔軟性やスキルが求められるので、まずは都内の現場を手伝いながらOJTで指導し、新島に向いているかどうかを検討するとのこと。
「長く働いてほしいので、若い人に来てほしいですね。経験者が来てくれたらありがたいですが、島の高校生を支援したいという気持ちもあるんです。働きながら建築技術が学べる『東京建築カレッジ』という専門学校が池袋にあるんですが、GrowRoomはカレッジと提携した教育体制を用意しています。
例えばうちに就職すると月曜~木曜は現場で働いて、金曜・土曜はカレッジで学ぶということができます。2年間の学費は会社持ち。寮もあります。卒業後はそのまま東京に残ることもできるし、新島にUターンすることもできる。大工のなり手が少ないなか、若手の育成に少しでも貢献できるなら僕ができることはやっていきたいです。
また島で観光業を始めたのは、社員の稼ぎ口を確保したい気持ちもあるから。飲食店の『なぎさ』やゲストハウス『エトセトラ』を始めた場所は、もともと職人さんのための宿舎と資材用の倉庫として使おうと思っていました。でも、どうせ改修するなら、きれいな宿と食事処を作れば職人さんも楽しめるだろうし、社員が年齢を重ねて大工仕事が厳しくなったときに、宿の仕事で雇用を維持できるかなと。それで、よし作っちゃおう!と。
新島はアウトドアや釣りが好きな人、海が好きな人なら、楽しみながら働ける場所だと思います。都内の場合、現場まで1時間かかるなんてザラ。それが新島では夕方6時まで働いても、5分後には家にいる。疲れ方が全然違いますよ。東京に出ようと思えば、飛行機を使ってドアツードアで練馬まで2時間で行けますし。新島でぜひ活躍してもらえたらと思っています」(高橋)
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