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コラム
【インタビュー】旅でも、移住でも、リゾバでもなく。ゆるやかに島とつながり「その先」へ向かう、新世代のFlowlife
2024/06/13
移住者インタビュー
今年のゴールデンウィーク、新島でユニークな現地ツアーが開催されました。仕掛け人は<美に特化したアグリツーリズム>をめざして今春、新島で起業した合同会社るとり。Flowlifeのインタビューにも登場いただいた、居酒屋サンシャイン店主の斉木佑介さんをはじめ、島内外のメンバーで結成された話題のチームです。
第1弾企画となるツアーのテーマは「明日葉」。地元の明日葉農家、天野律子さんの畑で明日葉摘み体験をした後、昨年から斉木さんが新たにが手がける「しおさいの塩」の製塩所を見学。つみたての明日葉と塩を使った特別ランチを堪能後、明日葉と塩をブレンドした足湯を楽しみ、最後はカフェで明日葉玄米茶を飲んでフィニッシュという、明日葉づくしの3時間。
島の農産物の魅力を最大限に生かした切り口もそうですが、このツアーが地元-移住者-関係人口の連携プレイによって運営された点も画期的な試みでした。特にFlowlifeでは、ツアースタッフが新島に関わり始めた3人の20代だったことに注目しました。
単なる観光でも、がっつり移住でも、稼ぐためのリゾートバイトでもなく。軽やかに島とつながる彼らの話をうかがってみました。
Contents
友人との出会いから、導かれるように新島へ
阿部銀司さん
1人目にご紹介するのは、アテンドスタッフとしてツアー全体を管理した阿部銀司さん。千葉県浦安出身で、日本大学芸術学部院で写真を学びながら、生活の半分を新島で過ごして制作活動を続けています。
初めて新島に来たのは2018年で、大学で新島出身の森 碧廉(アレン)くんと友だちになったのがきっかけです。アレンとの出会いは今でもはっきり覚えているんですが、入学式の日に他の学生が資料を参照するスピードの速さについていけなくて、慌てて教科書をザーって全部落としちゃったんです。それをサッと拾ってくれたのがアレンくん。もうキュンと、ときめいちゃって(笑)。
クラスも一緒だったのでいろいろ話してみたら、新島出身だという。じつは僕、高校の卒業旅行で新島に行こうとしていたんですが、チケットが取れなくて行けなかったんです。サーフィンという共通の話題もあって、すぐに打ち解けて。生まれた場所も環境もぜんぜん違うのに、なんでこんなに気が合うんだろう?って不思議なくらいでした。
そこから毎年夏になると、新島のアレンの家で過ごすようになりました。去年からは仕事もするようになって、夏はサンシャインで、冬は青沼工務店で働いてました。そのころアレンはオーストラリアに行ってしまったんですが、島の友だちから仕事を紹介してもらいました。彼とはしょっちゅう会っていて、彼が内地に来る時はうちに泊まって、僕が島に来る時は泊めてもらうって感じでホームステイしあう関係です。
新島に惹かれる理由はたくさんあるんですが、結局いつもたどりつくのは、人かなって思います。関わる人たちがみんな濃いというか、機械的じゃなくて本質を見てくれる。そこが気に入っています。
新島を題材にした写真展を2回開いているんですが、「新島に行ったことはないけど、見たことがある気がする」と言ってくれる人もいて、何かを伝えられているのなら嬉しい。そういう経験が自分を「もっともっと」と突き動かしています。
去年は半分くらい新島にいたので、学校の授業に出てなくて。ついに先生から連絡が来て「すいません、新島にいます!」って謝りました。怒られるかなと思ったけど、島で撮った写真を見せたら「この内容だったら休んでいいよ」って許してもらえたんです。僕が島の外から撮るんじゃなくて、中に入りこんで撮ろうとしていることを先生はわかっているから「自由にやっていいよ」って言ってくれたんだと思います。
1泊だけ過ごしたこの島で、まさかの転機が待っていた
木村アリス美南さん
2人目にご紹介するのは、ギンジくんとともにツアーをアテンドした、パートナーの木村アリス美南さん。神奈川県葉山出身の彼女は、1年前に訪れた新島旅行が思いもよらない転機となりました。
新島で民宿と食堂をしている一本松さんで友だちが働いていて、去年「遊びにきなよ」って誘われたのがはじまりでした。学校を卒業して春からアパレルで販売員として働き始めたんですが、人間関係でしんどいことが多くて。気分転換になればいいなって、軽い気持ちでした。
いざ新島に来てみたら、ホントに心が癒されて。友だちにも「アリスがこんなにイキイキしているの、久しぶりに見た」って言われたくらい。言葉ではうまく説明できないんですが、自然の力というか、開放感がものすごくて…。
それで夜にサンシャインにごはんを食べにいくことになり、そこで働いていたギンジくんと出会って、おつきあいするようになりました。24時間しか島にはいなかったんですが、まさか1年後に自分が新島でお客さんに明日葉の説明をしているなんて、ビックリですよね。
仕事はとりあえず1年間続けようと思ってがんばったんです。でも、お客さんと話すのは楽しかったけど、ここで得るものはもうないなと思って今年の3月で辞めました。それで、古着が好きなので古着屋で働きたいなとか、スイスのハーフなので将来スイスに住みたいなとか、いろいろ迷っているときにギンジくんから「新島に来たら?」と誘われたんです。
最初は「島で自分に何ができるんだろう…?」と不安で迷っていたら、サンシャインの祐介さんが明日葉ツアーやサンシャインのバイトを用意してくれて。ゴールデンウィークいっぱい新島で過ごすことになりました。毎日新しいお客さんと話をして、めちゃくちゃ楽しかった!
島では時間がゆったりしているし、通勤もないし、毎日がイキイキとしていました。あれだけ苦手だった朝もちゃんと起きれたし、ごはんが毎日おいしかったです(笑)。
島にいる間、以前から取り組んでいたサイアノタイプの作品もつくりました。サイアノタイプは日光の力でモチーフを紙や布に転写する方法で、光にあてると藍染のような青い写真になるんです。押し花や写真を使って一点モノのTシャツやバッグをつくっています。滞在中には、島の明日葉をつかった作品も制作。季節ごとにいろんな作品をつくりたいなって思います。
僕らの世代に刺さる新島
今回のツアーでは初めて新島に来た旅行客はもちろん、何度も島に来ているリピーターの方や、新島ローカルの人が「新島ってこんないいところだったんだ」とつぶやいていたのが印象的でした。そしてもうひとつ、ギンジさんは「僕らと同じ世代の人にものすごく刺さっている実感があった」と言います。
なんでだろうって考えてみたんですが、テクノロジーとの関係かもしれないなって思いました。1999年から2000年に生まれた僕らの世代って、今みたいにテクノロジーが進化する前に育っていて、携帯電話もガラケーだったし、ネットワークが近かったかと言われるとそんなことなくて。そこまで情報もなかったので、きれいな海がどこにあるかもわからなかった。
今の子どもたちは新しいテクノロジーが目の前にあって、その中で生きている。それって結局、ぜんぶ人がつくったものですよね。なんでもすぐに調べられてすごく便利だし、医療だったり人のためになることも多いと思います。
でも、どんなに頭がいい人でも、新島の景色はつくれない。ゲームの中にも出てこない。人がつくりだせない新島の自然、もともと地球にあったものっていうのが、僕たちの世代には刺さるのかなと思うんですよ。
僕だけじゃなくて、新島に来たいっていう人、結構多いんですよ。島と合う人とそうでない人がいるので、こいつは合うかな?と思う人だけ呼ぶようにしています。島には地元の人、移住の人、通っている人、いろんな人がバランスをとって暮らしています。僕たちはそのバランスを崩さないようにしながら、ここでがんばりたいなって思っています。
ここに来たら、自分を変えられるんじゃないかと思った
水戸部 晃平さん
最後の一人は「新島に合う人だけ呼びたい」というギンジくんが声をかけた友人、水戸部 晃平さん。茨城県古河市出身で、去年11月から居酒屋サンシャインの厨房スタッフとして働いています。明日葉ツアーではランチを担当。電気トラブルで調理できないというハプニングにも見舞われましたが、「参加者のみなさんが残さす食べてくれたのが嬉しかった」と言います。
アレンやギンジとは大学で同じ写真科だったんですが、アレンに会うまで新島のことはまったく知りませんでした。それで夏に何度か遊びにきていたんですが、去年サンシャインでバイトしていたギンジから「調理できるスタッフ探しているけど、どう?」と誘われ、自分のタイミング的に行けそうだったので、行っちゃえ!ってノリで引っ越してきました。もともと料理が好きなので、自分に合っているかなと思ったし。
新島は「とにかくキレイな島だな」という印象です。でも、遊びに来ていたときは海ばかりを見てキレイだなあと思っていたんですが、住んでからは森がこんな近くにあることに驚いています。ふるさとの古河も田舎といえば田舎なんだけど、森に入ろうと思うと車で1時間はかかる。新島なら、歩いて10分で森に行ける。海も、森も、どっちも近い。それが魅力だなと思いました。
島では、ほぼ毎日友だちといますね。午前中は仕込みをして、終わったら誰かと遊んで、店で働いて、終わったら誰かの家で遊んで、という感じ。じつを言うと、島は人との距離が近いので自分も成長できるかな、ということも新島に来た理由です。人とのコミュニケーションが得意ではないので、そこができるようになれたらいいなと思って。
新島では良くも悪くも、人から逃げられないじゃないですか。何があっても明日にはぜったい会うし、関係を放棄することもできない。それがいいなって。そこが自分の嫌なところだったので、直せたらいいなと。
僕、新島に来る前にバイトをしこたまやってたんですよ。両手で数えられないくらい。たくさんの経験ができたのはいいんだけど、結局一つひとつのバイトはすごく短いってこと。何年も同じ仕事をしている人を見ると、なんで自分は続けられないんだろうって。
趣味も浅く広くだし、基本的に飽きっぽい性格。だから新島は別世界です。そこがよかったし、新鮮です。店主の佑介さんもいろんなことをやりたいタイプなので、そこも仕事を続けるのにあっているのかなと感じました。
何か他にやりたいことが見つからない限り、ずっと新島にいるつもりです。実家は写真館で、家を継ぐために大学に行ったんですが、今のところは継ぐかどうかわかりません。でも佑介さんのそばにいれば経営のこともよくわかるし、そこもいいなって思います。
今は動画を撮って休日にインスタに上げるのが楽しい。友だちとブランドを立ち上げようかという話もしていますし、シカ猟師さんと仲良くなって、憧れのマタギみたいにジビエを食えるようになったらいいなという夢もあります。
ゴールデンウィークはどうにかなりましたが、夏はどうだろう。走り切れるといいな。ギンジとアリスも来るし。よくよく考えたら友だちと、その彼女と働くって、どうなんですかね(笑)。でもギンジが好きなんですよ、いろんな人を混ぜ合わせるのが。だから楽しみです、夏が。