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コラム
【BOOK】島で働き、生きていくことの覚悟と喜びを知る、移住&起業希望者必読『東京、なのに島ぐらし』
2024/12/12
よくある暮らしエッセイだと思っていたら、とんでもないお宝になるかもしれません。伊豆大島で古民家カフェ「Hav Cafe」を営む寺田直子さんの著書『東京、なのに島ぐらし』。東京諸島で起業したい、移住したいという人にとって、新しいバイブルになりそうな注目の一冊です。
トラベルジャーナリストとして世界中を忙しく飛び回っていた寺田さんは、50代を迎えて将来を見据え、住み慣れた都心の家を離れて暮らしのダウンサイジングを考え始めます。時間を見つけては物件サイトをのぞき、旅先で不動産屋を見つけると物件をチェックして、という日々を過ごしていたある日。取材中だったメキシコのホテルで、ある物件を目にします。
それは長年、彼女が通いつづけていた大好きな場所、伊豆大島の古民家でした。
「この家、知ってる!」
その場で申し込み、弾丸帰国して大島の家を内見。最初に情報を見た日からわずか5日後には、その家のオーナーになったのです。
訪問国100か国以上、旅歴40年以上、世界中を見てきた旅のプロが選んだのは伊豆大島の南、波浮港。昔ながらの趣が色濃く残るレトロな港町で、カフェの店主になるという彼女の冒険が、ここから始まります。
「島で古民家カフェの店主になる」なんて、なんとも素敵な響きですが、現実はそう甘くありません。島の観光シーズンは限られていますし、天候が荒れると旅行者も食材が島には渡ってこれません。当時の波浮港に、カフェは0軒。競合が少ないことをチャンスにするには、綿密な計画が必要です。
東京と大島の2拠点居住のどちらにするか、費用はどのように調達するのか、カフェで人を雇うのかワンオペなのか、どんなメニューを出せばお客さんに喜ばれつつ採算がとれるのか……。台風被害やコロナ禍に翻弄されながら、少しずつ島でのくらしをつくりあげていく日々が赤裸々に綴られています。
異国の地から大島の家を買おうとするプロローグからグイグイ惹きこまれ、旅エッセイとしても、一人の女性の冒険譚としても十分に楽しめる内容。でもそれ以上にFlowlifeでは、東京諸島への移住や起業を一度でも考えたことのある人なら、すぐに使える実用情報が満載な点に注目しました。
特に家の購入費や改修費用、カフェの収支など、お金にまつわる部分はここまで書きますか!というくらい金額が明記してあり、「そうそう、それが知りたかったの!」と握手したくなるくらい。
他にも本著では、こんな情報がわかります。
- 東京諸島での創業について相談できる機関
- 島での不動産の探し方と契約のしかた
- 活用した補助金
- 古民家のよさを活かしてくれる設計士の探し方とコミュニケーション方法
- 地元工務店の探し方と依頼のしかた
- 離島でのカフェ営業にかかる費用やリスク
- 地元食材を活かしたメニューのつくり方や値段のつけかた
- 火山の島で生きていく義務と責任
- 離島での人間関係と、移住者としての関わり方
特に大工さんとのやりとりはリアルで手に汗握りました。傷みが激しいハード物件を見て「壊しちまえよ、俺がもっといい家をつくってやっからさ!」という大工さんの言葉、新島でもよく聞きます(笑)。
そこから設計士さんが根気強くコミュニケ―ションをとり、あの素敵なHav Cafeになっていくプロセスは読みどころのひとつ。ぜひ本著を手にとって追体験していただきたいです。
ドラマ『東京放置食堂』のロケ地として使われたことや、メニューにつかっている地元食材へのこだわり、友人たちとのふれあいなど、ほかにも読みどころ満載です!
『東京、なのに島ぐらし』
寺田直子・著 東海教育研究所・発行