Column
コラム
【インタビュー】新島での時間はごほうび。だから、がんばれるんです
2022/07/12
Contents
神奈川県出身、比留川あゆみさん(34歳)の場合
海で、港で、宿で、学校で。夏になると新島のあちこちで、この元気な笑顔を見かけます。新島に通い始めて15年になるという「浜庄のあゆみちゃん」こと、比留川あゆみさん。試行錯誤をへて、彼女がたどりついたフローライフとは?
新島へ通う理由
ライフセーバーとして過ごした19の夏
新島に初めて来たのは、スポーツ専門学校の1年生だったときです。スイミングのインストラクターになりたいということと、ライフセービングもできるようになりたいと思って選んだ学校でした。そこで救急救命の授業を教わっていた先生が、たまたま新島と縁のある人で。ライフセービングの資格を取った後、先生のつながりで夏休みに新島でライフセーセーバーとして過ごすことになりました。
神奈川の藤沢出身なんですが、新島のことはそれまで全く知りませんでした。写真を見せてもらって「海がきれいなところなんだなあ」と思ったくらい。小学校の時に家族旅行で式根島には行ったことがあるんですが、下田から乗った船がすごく小さくて、気持ち悪くなって吐いた思い出しかない(笑)。隣に新島があることも認識していませんでした。
初めての新島にはライフセーバー20人ぐらいで行って、夏の間、島の宿舎で共同生活を送りながら島内各所で海の監視を行いました。当時は今みたいに浜にパラソルやテントもなくて、監視台で1日中強い日差しを浴びていたので、毎日ひたすら疲れてましたね。とにかく過酷。「1分1秒でも寝たい」っていう気持ちでいっぱいで、歯を磨きながら寝る人もいたくらい。
しかも毎日朝練と夕練があるんですけど、新島の海は波が強いのでキツいんですよ。最近の羽伏浦は昔に比べると波がないですけど、当時は波のパワーがすさまじかった時代。朝起きて、本村内の宿舎から新島グランドホテルの坂を上って下りて、「羽伏浦海岸入口」の文字が見えたあたりで海からドーン!と地響きみたいな波の音が聞こえてくると「ああ、今日もあそこに入るのか」と憂うつになってましたね。
でも、新島の人にはすごくよくしてもらったんです。今はライフセービングも期間が短いし島の人との交流もあまりないようですが、その頃はご飯を一緒に食べたり、バーベキューをしたり。宿舎に差し入れも、たくさんもらったなあ。ライフセーバーはみんなよく食べるから、かわいがってくれたのかも。とにかく楽しかったですね。
島が好きすぎて移住したものの…
それ以来、夏以外にもしょっちゅう島に来るようになりました。なんでだろう、海のきれいさと、人のよさ…かなあ。あまりに新島が好きすぎて、卒業後は新島に移住して2年間暮らしたんですよ。
卒業前、島の人に「島内の施設で10月に人員の空きが出るから、車の免許取って働きに来いよ」と言われて、伊豆大島で免許取って秋に来たら「ごめん、空かなかったわ」と言われて「エー!」ってなりました(笑)。どうしようと思って島のスーパーを回って「私を雇ってくれませんか」と交渉に行って、1年ぐらいスーパーでバイトしていました。
あと、島のバレーボールチームにも入っていたので、その関係で民宿の仕事に誘われて。その後は民宿に住み込みで働くようになりました。20代の女子で走れる人がいないということで、島民運動会で1丁目のメンバーとして走ったこともあります。わりと地域密着型なんです、私。そこらへんの人より新島のこと、くわしいですよ。
そうやって2年間働いて、いったん島を引き上げることになりました。引き上げた理由のひとつは、新島の冬かなあ。内地の冬ほど寒くはないけど、西風が強くて海に入れない日が多いんですよね。
それと私、ヒマが大っ嫌いなんですよ。例えば民宿で何人かのバイトさんと一緒に働いていて、お客さんが少ないと仕事も少ないじゃないですか。そういうときの「ヒマなのに時間は縛られる」という状態がイヤで。だったらバイトの人数を減らせば人件費を減らせるし、私はバイト料いらないから休ませてくれたらそのぶん海に入れるじゃんって思うタイプ。
新島の冬は旅行者も少ないから、仕事もそこまで忙しくないですよね。だから時間がたっぷりある。なのに海にも入れないっていう日が多くて、私はその時間に家で静かに何かするみたいなことが全然性に合わなかった。2年間いて、そこがどうしても乗り越えられなくて、いったん島を出ることにしたんです。
「夏は島、冬は内地」の2拠点生活へ
実家に戻った後は念願のスイミング教室のインストラクターになって、まとまった休みができると新島に来るという生活になりました。その頃からサーフィンも始めたんですよ。新島の波は初心者には厳しすぎたんですが、仕事の合間に湘南に通ってサーフィンするようになって。それでもやっぱり新島の波は強すぎて、全然サーフィンできず心折れそうになってましたね。
そうこうするうちに28歳になり、失恋してしばらく新島で過ごした時期があったんですが、そのとき初めて新島在住のプロボーダー、佐藤晃子さんのボディボードスクールを受けて。「あ、私はサーフィンよりボディボードのほうが合ってる」と気づいたんです。新島でサーフィンはできないけど、ボディボードはできる!もっと早くボディボードに出会っていればよかった!と思ったら、もう新島で波乗りするのが楽しくてしかたなくって。
そこから「春から夏の間を新島で過ごして、秋から冬は内地で働く」という、島と内地を半年ずつ行き来する生活をするようになりました。内地ではスポーツクラブで教えていますが、契約するときに「4月〜9月の半年間はこっち(新島)で遊ぶから仕事をお休みさせてほしい。そのかわり、10月〜3月の半年間は片道2時間半までならどこの店舗のヘルプに入れてくれてもかまいません」とお願いして、会社に了承してもらって新島に来ています。
春になると新島に来て、観光シーズンが終わる9月まで民宿で働きながら、休憩時間に海に入るという生活です。波乗りするために来ているわけだから、天気が悪い日以外は基本、海へ行きます。
逆に、冬の半年間は一切海に入らないんですよ。夏の半年をめいっぱい楽しむために、冬の間は週7日めちゃくちゃ仕事します。ワーッと働いて、ワーッと遊ぶ。そうやって生活にメリハリがあるほうが、やりがいを感じられるんですよね。
まあ、新島でもずっと働いているんですけど、新島での仕事は仕事っていう感覚があんまりないかも。新島に来ている時間は、自分の中ではごほうびという気持ちですね。あっち(内地)の仕事も楽しいんですけど、新島での時間を楽しみに半年間がんばる!みたいな感覚かもしれないです。
島で暮らすということ
小さい島にいると世界が狭くなる、わけじゃない
今の生活になって4、5年たちますが、新島に住みたい気持ちはずっとあって、そのタイミングはいつなのかなとずっと考え中です。なんだかんだいっても19歳で初めて来てから15年間、新島に来なかった年って一度もないんですよ。「他にもっといい島があるのかもしれない」と思うときもありますが、今のところ新島はこれ以上ないってくらい最高の場所。「新島に来ない」という選択は私の中にはないですね。
でも1年間通して島で働くとなると、仕事もちゃんと考えないといけないし、家も探さなきゃいけない。今はこっちにいる間だけトレーラーハウスを借りて寝泊りしているんですが、部屋が狭いので住み続けるのはむずかしいと思います。家を借りるのは、もっとむずかしい。2年間移住したときも、家を見つけるのがとにかく大変で、島の中を転々としましたから。
かといって、今のインストラクターの仕事を30年後もできるかと言われると、厳しいだろうなと思っています。体力的にもきついし、まったく知らない生徒さんに教えることもあるので、常に緊張感があります。1日3時間のレッスンで、ぐったりしすぎてビール2本しか飲めないんですよ。
その点、新島では誰と誰が仲良しとか、誰が誰の親戚とか、人間関係がわかるようになったので精神的なストレスはないですね。新島に室内プールがあって、島でインストラクターの仕事が1年中できるのが理想。そしたら私は、迷わず新島に永住すると思います。
最近嬉しかったのは新島の小学校や中学校で、授業補助という形で子供たちに水泳を教えられるようになったこと。新島生活も長いので、まず親御さんと知り合って、お子さんとも知り合って、結果的に家族全員知っているっていう状態になってます(笑)。
だからこそ逆に親とも子供とも、いい距離感で遊びたいなとは思います。島で特別仲良くしている人はいないですね。海でよく会う人とも普通につきあいますが、そこまで深入りはしないです。過去にいっぱい失敗してきた積み重ねもあるだろうし、誰かに合わせるのも苦手なので「海に行けば誰かに会えるから、それでいいじゃん」って思っちゃう。
でも島に行くたびに、新しい出会いがあるので新鮮ですよ。島にいて、お互い顔は知っていても話すきっかけがないってこと、あるじゃないですか。そうやって1年1年、自分の世界がどんどん広がっていくのがすごく楽しい。宿のお客さんも話してみると面白い人が多いし、意外なところで縁がつながったりするんですよね。
新島への移住を考えている人へ
「新島に移住したいけど、どうしよう」と悩んでいる人がいたら、悩んでいる時間がもったいないです。私は気になることがあったらすぐ調べるし、思いたったらすぐ動くタイプなので、1分悩むくらいなら即動け!って思いますね。
例えば私は仕事が終わったらすぐ海に入りたいので、下着はいつも水着なんです。そうすれば仕事が終わって部屋に戻って服を着替えて出かけて…なんてせずに、仕事場からそのまま海に入れる。10秒でも早く海に入れたほうがよくないですか? 新島ってそういう人多いですよね(笑)
学生時代も本場のライフガードを知りたくて、一人でオーストラリアへ行ったことがあります。むこうのライフガードって、公務員なんですよ。ライフガードになるには厳しいテストに合格しなくちゃいけなくて、合格後も定期的に体力テストに合格しないと続けられないんです。オーストラリアと日本って何が違うんだろうと思い始めたら、とまらなくなって。
英語が全然しゃべれないので、滞在中はホストファミリーの犬だけがお友だちでしたけど(笑)、現地で自分の目で見て体験できたことがすごくよかったと今でも思ってます。だから新島に興味があるなら、ぜひ島に飛び込んでほしいって思いますね。
あゆみさんのフローライフ
top photo by hayacho