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【連載】家のことで困ってまして。(1)


2022/10/19

新島

家がなくて、結婚早々別居になりかけた話。

Flowlifeをご覧のみなさま、こんにちは。Flowlifeを運営しておりますスタッフのミヤガワと申します。新島では屋号で呼ばれることが多く、私も屋号の「ソーデー」で呼ばれております。

ふだんは裏方に徹している私が、なぜノコノコと出てきたかと申しますと、私も一応移住者のはしくれでして、どうやら王道の移住者ライフを送っているらしく「参考になるので書いてみたら」と勧められて調子にのりました。どうぞよろしくお願いします。

さて。

島の話を始める前に、少し個人的な話をさせていただこうかと思います。私が新島に来たのは、7年ほど前のこと。出身は山口、進学で大阪、仕事で東京と本州を東へ東へまっしぐらに移動してきましたが、なぜか40代で唐突に急ハンドルを切り、東京から約160km南の新島へやってまいりました。

移住でよく言われるのが、故郷へ帰る「Uターン」、故郷とは別の場所へ移住する「Iターン」、故郷の近くへ移り住む「Jターン」。最近ではUターンする夫についていく「夫ターン」や、Uターンする妻についていく「嫁ターン」といった言葉も聞くようになりましたが、私はそのどれとも違っていて

嫁入り。

新島に住んでいる男性と結婚するために引っ越してくるという、大変トラディショナルなターンでございます。

島に住んでいる男性と、長年フリーライターとして東京で活動していた私が、何がどうなって結婚したかについてはシラフではお話できないので割愛させていただきますが、新島一の高齢初婚カップルとして「マアイシラガンバイヨ(ま、あなたたちがんばって)」と村長から謎のエールを贈られ、どうにかこうにか今に至ります。

長年住み慣れた東京を離れ、続けていた仕事を辞め、それなりの夢と覚悟を抱いてやってきた新島。そこで最初に待ち構えていたものといえば「住み家」という大問題でありました。今回はそんな、島での家探しにまつわるお話です。

よろしくどうぞ

いま私は新島村の移住定住窓口として、島内外の方の相談に乗っているわけなのですが、そのほとんどが「家を借りたい、買いたい」という相談です。東京から移住したいので、住む場所が欲しい。島で起業したいので、仕事の拠点が欲しい。社会人になったので、実家から独立したい。子供が生まれたので、家を住み替えたい。理由はさまざまですが「島の家を手に入れたい」という願いは共通しています。

それに対する私たちの答えは、残念ながら同じです。「ごめんなさい、ご紹介できる家はないんです」。

そうすると、島外の方は必ずキョトンとした顔をされます。その顔を見て「ですよねー」と思います。島にいると当たり前みたいに言われるんですが、この「家がない」という感覚、内地にいると全く理解できないんです。

私自身もそうでした。都会、田舎、これまでいろんな土地に住んできましたが、そこには必ず不動産屋があって、空いているアパートや一軒家がありました。あとは「この物件いいんだけど家賃が予算より1万円高いな払えるかなー」とか「この物件は家賃安いけど幹線道路沿いで騒音どうかなー」みたいな悩みの積み重ねで、ここでいう「家がない」は「自分の条件に合った物件がない」ということを意味します。

ところが新島では事情が全く違います。まず、不動産屋がない。この時点で「え、どゆこと?」となりますが、不動産屋がないということは家の貸し借りを誰も仲介してくれないということで、そうなるとどうなるかというと

家主に直接交渉して「OK!ユーに貸してもいいよ!」と言ってもらえないと家を借りられない

ということになります。

この時点でハードル爆上がりです。じゃあアパートやマンションなどの賃貸物件はどうか?と思うかもしれませんが、残念ながら新島に賃貸物件はほとんどありません。人の流れが極端に少ない離島ゆえ、簡単に出たり入ったりできる物件は皆無に等しいのです。

気を取り直して、家主との直接交渉に戻りましょう。運よく「貸してもいいよ!」と言ってもらえたとしても、そのまま住める家はほとんどなくて、自分で塗ったり切ったり貼ったりトンカンしたりして手を加えないと「家を借りたはいいが今夜寝るところがない」というようなことが十分に起こりえます。

島の家探しってサバイバル

私がダンナと結婚することになったときも、障害となったのがこの「家問題」でした。

結婚する前、彼とはいつも東京で会っていたので、私が新島に足を踏み入れたのはずいぶん後のこと。別に行きたくないわけではなくて、むしろ早く行きたい気持ちだったのですが、私が行こうとすると

「夏は人が多いからやめたほうがいいよ」

「秋は台風来るからやめたほうがいいよ」

「冬は船がないのでやめたほうがいいよ」

「春は風が強いからやめたほうがいいよ」

って、いつならいいんかーいって感じで謎の圧力をかけてくるのです。

ここまで拒絶されると「何か来られると困ることでもあるのかな、もしかして既婚者とか……?」と疑心暗鬼になってきます。そこであるとき彼に内緒で飛行機を予約し、新島へ行く直前になって彼に「行くよ」と告げたのです。すると彼は特に動揺する気配もなく、彼が暮らす実家へあっさり案内してくれたのでした。

なんだよ脅かすなよう

出入口を入った途端、目に飛び込んできたのは新島で「オオヤ」と呼ばれる巨大な母屋。その奥に「インキョ」と呼ばれる小さな離れの家があり、煮炊きもできる蔵と倉庫があり、その奥には家の中とは思えないほど大きな畑が広がっていました。

なにこの豪邸。ひょっとしてこのおじさんセレブ……?

と思いましたが、よく見たら新島の家はみんなこんな感じでした。一瞬で夢破れました。

実家では母屋にご両親が、離れに彼が暮らしていたのですが、島には賃貸物件がないと聞いていたので、私が彼と結婚するとしたら自分が実家に入るしか道はありません。けれど彼が暮らすインキョにはキッチンと風呂がない! 新島の家にはよくあることのようですが、そうなるとキッチンとお風呂をご両親と共有することになります。

知らない島に来ていきなりこのシチュエーションってハード案件すぎ。新婚なのに(見た目ベテランだけど)

さすがにそれはないよねという話になり、インキョをリフォームすることで話はまとまりました。しかし事態はそう簡単には収まりません。結婚が決まったところで真っ先にリフォームの依頼をしましたが、3か月たち、半年たち、結婚式まであと少しという時期になっても、工事どころか見積もりすら上がってきません。

島の工事については話が長くなるので、またの機会に解説したいと思いますが、大工さんが忙しくて順番が回ってこないとか、建材が高くて工事費がかさむとか、島ならではの事情は最大限くみたいとは思いつつ、このままいくと引っ越せないので結婚を遅らせる結婚早々別居という究極の二択を迫られてきます。

いよいよこれはマズイという時期になり、彼から「リフォームが終わるまでどこかに家を借りよう」という提案がありました。借家っていう選択肢があるなら先に言ってよ~!とホッとしたものです。ぬか喜びでした。ぬかすぎました。その先に待っていたのは、はてしない家探しの沼でありました。

このときの私は、「不動産屋がない」ということがどういうことなのかも、空き家を借りるには家主と彼の関係や家同士の関係などを考えた上で慎重に交渉しなければならないことも、なにひとつわかっていませんでした。そんな私をよそに、彼は空いている家の目星をつけ、知人を介して根回しをし、いけそう!というところで大家さんに交渉して、そのたびに断られるということをくり返していたのです。泣ける。

でもそんなことを彼はなにひとつ話さないので、結婚式直前にただただ「家が見つからない」と言い続ける彼のことを内心

ちょ待って、このひと「結婚するする詐欺」じゃないよね……?

と疑っていたことを、いまここで告白いたします。

そんなこんなで私の新島生活は「嫁入りするのに家がない」という大変ファンキーな状態で始まったのでありました…。

次回へつづく

※補足: 2022年現在、新島では不動産屋さんが1軒営業しています。新島村でも空き家バンクを運営していますので、私が引っ越してきた頃より空き家は借りやすくなっています。ただし物件数は非常に限られていますので、家探しが大変であることに変わりはありません。

text by ソーデー由美

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