Column
コラム

【レポート】新島でくらし、働くこと。若手経営者&移住者の声を聞く


2022/06/20

島ぐらし

新島に移住者を増やすには? 新島にどんなビジネスチャンスがある? そんな気になるテーマの意見交換会が2022年6月13日(月)に新島・本村地区で行われました。村議員が新島・式根島それぞれの地域住民と対話する『議員と一緒に考える会』において、本村会場では「若手経営者と対話しよう」をテーマに地域住民約30名が集まり、新島の移住事情や事業の可能性について語り合いました。このページでは、その中から移住定住に関するテーマを中心にレポートします。

新島で働く移住者、それぞれのケース

『議員と一緒に考える会』本村会場では、声かけに敏感に反応した新島村商工会青年部を中心に、島内で事業を営む経営者が多数参加。300年以上続く伝統食「くさや」の後継者がいれば、移住して新規事業を立ち上げたIターン組や、島に欠かせない仕事をしながら個人事業を立ち上げた地元出身者もいて、島で事業を行う思いや島の課題について熱のこもったやりとりが交わされました。

まず紹介されたのが、新島に移住して活躍している事業者たちの話です。特に新島ではコロナ禍を機に、島にいながら東京の企業でリモートワークするケースが増えています。

例えば東京のIT企業で働いている移住者の高木知明さんは、コロナ禍でフルリモートとなり「仕事の環境を整えるために」離島への移住を検討。村営施設クリエートセンターのオフィス棟に空き室があったことから2020年末から新島に通い、2021年2月より本格移住開始、東京との2拠点生活を始めました。現在は自分の会社の業務をこなしながら、新島の商工会や村営施設などで働いているそうです。

「新島出身の妻と結婚した時から、いずれは新島に移住することが決まっていた」という高橋徹さんは、お子さんの大学進学を機に2019年に新島へ移住。空き家となっていた実家を改修し、奥様が事業主となってゲストハウスを開業されました。高橋さんは勤務していたIT企業に席を置き、半年ほどリモートワークをしていたそうですが、東京勤務が必須となり退職。その後、コロナ禍で元職場がフルリモート勤務となり、現在は復職して新島にいながら東京の企業で社員として働いています。

一方、移住して新島で店を開業する人もいます。先輩に誘われて7年前に埼玉県から移住してきたという斉木佑介さんは、新規開業した飲食店のスタッフとして働いていたところ「3年前に先輩が島を出ることになり、店を残してくれたので事業承継という形で店を受け継いだ」とのこと。現在はオーナーとして飲食店を切り盛りしています。

地場産業に未来はあるか?

会では農業、水産加工業、観光業など地場産業を支える地元経営者も多数参加し、産業の現状とビジネスチャンスについて、さまざまな意見が出されました。

くさや製造元として20代で家業を継いだ池村遼太さんは、「くさや屋が減るなかで家業を継ぐことはチャンスだと思っていました。市場が縮小しているので、家族にしか継がせないというこれまでの枠を取っ払い、くさや製造を広げていきたい」といいます。また近年ゲストハウスも開業し「宿が4件減ると旅行者が1000人減るという話を聞き、素泊まりなら本業と両立できると考えて」複数の事業で観光の島・新島の復興に力を注いでいます。

同じく、くさや製造元である吉山裕盛さんも「この10年でくさや屋が半減しています。くさや屋が廃業すると、くさやを食べる人も一緒にやめてしまう。くさやを作る働き手不足も深刻」と厳しい現状を吐露。一方、力を入れているネット通販事業は売上が右肩上がりで「ネットを強化し、海外も視野に入れていきたい」と生き残りをかけ事業展開を模索しているといいます。

一次産業の農業分野では、新島では玉ねぎや明日葉、あめりか芋などの生産が盛んですが、「島内に生産者がなかなか増えない。自分たちで食べて近所におすそわけする分が作れても、商品にできる品質の農産物を量産する技術やノウハウができあがっていないのが現状。例えば島内で消費される玉ねぎをすべてまかなえれば、それだけで食べていけると思います。地産地消のチャンスは十分にあるのでは」と農協組合長の大沼剛さん。

また、自動車整備業を営む小久保雅章さんは、島の人口が減少の一途をたどるなかで、家業を継いで法人化。「下り坂の事業計画を立てるのは非常に難しかった」といい、観光業に進出してレンタカー事業を手がけることで事業の安定化を模索したそう。「今年は電動キックボードやマリンアクティビティを手がけるなど、検証の年にしたい」と多角経営に乗り出す方針とのこと。

島ならではの特産品は新島村ブランドとして認定されている

島を超えて動き出す若手たち

沈静化しつつあるコロナ禍や、ウクライナ侵攻を機に始まった政情不安や物価高騰で、まだまだ先の見えない日々が続くなか、新しい事業にチャレンジする20~30代の若手も出てきました。

新島の醸造所で焼酎製造にいそしむ櫻井浩司さんは、本業のかたわら兄弟で事業を立ち上げ、今春からサイダーの企画販売をスタート。島内の商店で取り扱われるほか、新島の新土産として島外でも話題を呼んでいます。「子供が手に取りたくなるような清涼飲料水を作りたいと思ったんです。6月には自宅の一部をリノベして店舗にし、雑貨店も開店しました。会社を辞めるつもりはなく、あくまで個人事業として両方がんばっていきたい」と意気込みを語りました。

また伊豆諸島の島々で事業を展開している八丈島出身の伊藤奨さんは、「三宅島で宿を経営していましたが、もともと自分は東京の島々で育ってきた。コロナ禍を機に、大好きな東京の島々を回ってそれぞれの魅力を探ろうと思い、昨年から島を転々として活動しています。自分に投資する期間だと思っていますが、その結果として伊豆大島でゲストハウス、新島でスタジオを作ることになり、そこを拠点に新たな課題を一つ一つ形にしていけたら」といいます。

移住者の高木さんは「仕事で手がけてきたデジタルとエンタメに、リアルな遊びをかけあわせて面白いことができないかと考えました。釣り好きだったこともあって、マリンレジャー領域が勝負ポイントと考えた」と、新島で法人を立ち上げマリンレジャー用品を企画開発。商品プロモーションとして新島に風景を活用することも検討しているそうです。

飲食店経営の斉木さんは、飲食業のかたわら新島の海水から塩を作る製塩業に着手し、自らの工房を建設。「コロナ禍で店が開けられなくなった時、自分にはお客さんを呼べるだけのスキルがないことに気づかされました。それで改めて食について勉強しなおした結果、塩にたどりついて。新島では塩を作っている人がいないこともあり、飲食業にも生かせて、おみやげにもなる塩をやってみようと」店の経営と塩作りに精力的に活動中です。

島への移住とビジネスチャンス

伊豆諸島の中でも特に高齢化が進んでいる新島村。人口減少の歯止めがきかず、地域のさまざまな場所で人手不足が深刻化しています。担い手がいないためにサービスが休止するケースも目立ってきており、新島村では移住定住施策に力を注ごうという動きがあります。

実際に移住した人や、移住を考えている人からは「新島は明るい人が多く、外からの人間でも受け入れてくれる」「2泊3日の旅行でこんなに地元の人と仲良くなれると思っていなかった」など、移住者にとっては「入りやすい島」という印象があることがわかりました。

一方で、結婚を機に新島へ移住したある女性は「新島はあたたかい人が多い反面、良くも悪くも商売下手でガツガツしていない。もっと積極的に魅力をアピールしたほうがいいのでは」と語りました。

他にも「どうすれば若い移住者が増えるのか」「島にビジネスチャンスとしての魅力はあるのか」といった話し合いが行われ、参加者からは以下のような意見が出ました。

・新島ならではの食材がもっとあれば、飲食業がやりやすい。移住者が新島でやる意味に見出しやすいし、島全体も盛りあがると思う。

・どこの家にも空いている部屋があるはず。空き家が出ないなら、部屋貸しすることができないか。

・新島にはオーシャンビューの民間施設がない。条例を変えるなどして村有地にオーシャンビューの民間施設を作れるようになれば民間事業者が入ってくるのでは。

・起業する時に何かしらの支援が受けられる仕組みがあればいいと思う。

・島に移住するにはコストがかかる。移住支援がほしい。

・新島村には商品をどのように売るのか、客観的に考えて戦略を練る人がいない。そういう人材に来てもらいたい。

今回の「議員と一緒に考える会」は村議員と住民が地域について話し合う初めての試みでしたが、島で暮らすことを選んだ移住者や、島を支える地元事業者の生の声を共有できる充実した時間となりました。村議員も「島の課題を整理し、解決策を模索することのできる機会となりました。島のために活動したいという議員のなり手を発掘したいという思いも含め、みなさんの声を村政に反映していけるようにがんばりたい」と語りました。

Column
関連記事

一覧へ

戻る