Column
コラム
【連載】家のことで困ってまして。(2)
2023/01/31
島ぐらし
Flowlifeをご覧のみなさま、こんにちは。新島村移住定住相談窓口スタッフのソーデー由美です。お寒うございます。離島といえば沖縄!といえば南国!ということで「離島=あったかい」というイメージをお持ちの方も多いかと思います。新島、普通に寒いです。たしかに東京より気温は高いですが、冬の名物「西ん風」が吹くと体感温度は1ケタ、ひどい時には氷点下になることもあります。冬の離島、油断なりません。
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西ん風だけでなくて、なにごとも油断できないのが島のくらしというもので。新島一の高齢初婚カップルとして、それなりの夢と覚悟をもって東京から新島へ嫁入り……するはずが入る家ないんかーい!というところからの、つづきです。
前回記事はこちら。
そして始まるシェア生活。そう、大家さんと。
東京で働いていた私が縁あって新島在住の男性と結婚することになったのは、今から8年ほど前のことです。仕事を辞め、アパートを引き払い、いよいよ身も心も東京を去る日が近づくというのに、新島での新居はいっこうに決まりませんでした。
人生の伴侶となったダンナはんは、生まれも育ちも新島というゴリゴリの島ローカル。実家の母屋には両親が暮らしており、ダンナはんは同じ敷地内の離れで寝泊まりしていました。普通に考えれば私が離れにインすれば丸くおさまるのでしょうが、島では「インキョ」と呼ばれる離れは新島独特の家で、リタイヤした親が暮らすためのアネックス的な住居だったのです。
食事などは母屋ですませるシステムなのか、台所やお風呂などの設備はありません。しかも20年以上使っていなかったということで、ダンナはんの部屋以外はリフォームなしには住めない状態。そしてダンナはんの部屋は「よくこんな部屋に住んでるね…」と言いたくなるほどワイルドな状況でありました。
さすがにこの状態で新婚生活を始めるのはしのびない、ということで離れのリフォームが計画されましたが、台所や風呂などの水回りを新設するには大工事が必要なことが発覚し、大工さん不足も追い打ちをかけて計画は早々に頓挫。私が島に来るまでにはとても間に合わないということで、当面の住まいとして借家を探すことになったのです。
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島での家探しが簡単ではないことは聞いていましたが、人口約2000人の新島は「みんな誰かの親戚」というほど人間関係が親密。それだけに「地元の人間なんだから、まさか見つからないってことはないよねー」と甘くみていたら、ホントに見つかりませんでした。
島内でめぼしい空き家を探しては、情報を集め、持ち主を見つけ、貸してもらえないかと相談しては断られる、ということをくり返していたダンナはん。あまりの苦戦に「わたし、嫌われているのかな…」と落ち込む始末。
新妻としては優しい言葉のひとつでもかけたいのですが、現実はちっとも優しくないのでとりあえず「すいません住民票って転入先決まってなくても移せますか」とあやしい問い合わせを区役所にするしかない私なのでありました。いざとなったらキャンプでもするかー!と考え始めたところ、
「朗報だ。家が見つかった!」
と連絡が来たのは、東京を出る1週間ほど前のことでした。
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その家は島外に暮らしているダンナはんの親戚が、ときどき島に帰るために建てた小さなおうちでした。メインストリートからは少し離れていましたが、買い物も郵便局も、どこに行くにも歩いて行ける距離。部屋は2間、家具も食器もそろっているとのこと。入ったその日から使えるという、これ以上ない物件です。
家主である親戚のおばさんは高齢で来島が難しくなり、もう何年も使っていないとのこと。「これが最後になるかも…」とおばさんが島に来ていることを知ったダンナはんは、同行していた娘さんを通じて交渉開始。
「次いつ島に来れるのかわからないけど、家は残しておきたい。でも、そのままにしていても傷むばかりだから、使ってくれると嬉しい」
交渉成立~~~~!!
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急転直下で、どうにか家を確保することができたのでした。
ただし、この家を借りるには3つの条件がありました。
まず、建物は親戚のものだけど土地の持ち主は別にいて、家を使えるのは土地の借地契約が切れるまでの数年間ということ。
今ある家具や衣類などの荷物は、そのままにしておいてほしいということ。
光熱費や税金などの固定費分を負担してくれれば家賃はいらないので、親戚が島に来た時には家を使いたいということ。
はい、といったわけでですね、
2つめの条件で既に「賃貸契約」の概念が消えていますね。
家は使えるけど、荷物はそのままにする。大家が島に来たら、家を開ける。これはまさにアレですよ、ご主人のいない間に自由に過ごし、ご主人が来たらこっそり姿を消すという
借りぐらしのアリエッティ
を地で行くライフスタイルということですね。
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そうか、「留守の間だけ人に家を貸す」という方法があるんですね。
不動産屋で家を借りることしか知らなかった私には、それはそれは目が覚めるような驚きでありました。何はともあれ私たちに選択の余地はありませんし、雨風を防げる家があるだけでもありがたい。親戚が使うとはいっても「そうそう来ないと思うよ」というダンナはんの言葉を受けて、ようやく私は新島に引っ越して新居に入ることになったのでありました。
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その家は6畳と8畳の和室にバス、トイレ、キッチンつきの小さな平屋。玄関と裏手に庭があり、裏庭には周囲を覆いつくすほどの巨木が立っていました。
朝は小鳥の声で目が覚め、昼は木々のざわめきを聴きながら、小さな畑で家庭菜園にいそしみます。大きな夕陽が海のむこうに沈むのを眺めたら、ゆっくり料理をしながら愛する夫の帰りを待つばかり。休日は天然酵母のパンが焼けるまで、庭にハンモックを出して読書でもしようかな。いずれ生活が落ち着いたら、カフェでも開こうかしら……
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…なんて生活が待っているはずもなく、現実はひたすら開墾の日々。長いこと使っていなかった家の周りは草木が伸び放題で、地元の人間ですらそこに家があったことを忘れるほどの雑木林と化していました。島の自然は想像をはるかに超える強さと荒々しさで、家の1つや2つ平気でのみ込んでしまうほどの生命力で挑んできます。
全身土まみれになりながら竹藪を切り倒し、竹が伸びては切り、伸びては切ってのくり返し。アリの大群に襲われたり、侵入するムカデに悩まされたり、裏庭にわいた大量の毛虫にやられて高熱を出したりしながら、落ち着いて生活できるようになるまで丸1年かかりました。
一方、家の中はどうかというと、たんすも押し入れも荷物がぎっしり詰まっていたので、古い家電や布団などは処分させてもらうことになりました。それでも子供用の水着や浮き輪、釣り道具など、家族の思い出が詰まっているであろうアイテムは「ぜったい捨てないで」と言われ、そのまま残すことになったのです。
大量のゴミを捨て、普段使うものだけを置き、少しずつ生活が整っていった島暮らし2年目の夏。大家さんの娘さんから電話が入り、「母と3日ほど帰ることになったので、よろしく」と言われました。
ダンナはんに聞きました。
「この『よろしく』は家をあけてくださいという意味ですか」
ダンナはんは言いました。
「はいそうです」
そうかそうか。本当に家をあけるのか。
私たちは大家さんの来島にあわせて荷物を車にぶちこみ、実家の離れへ大移動。お世話になっている大家さんには気持ちよく過ごしてもらいたいという気持ちで家をピカピカに掃除し、食事を共にし、各所へ案内するという3日間を過ごすことになったのです。
テレビもネットもない離れでは文字通り寝る以外何もできませんでしたが、普段はあまりしない外食を楽しんだりして、ちょっとした旅行気分です。大家さん親子も快適になった自宅を見て大変喜んでくれたし、ああよかった、とりあえず仁義は通した。そう安堵した1年後。
「来週行くことにしました」
今度は大家さんと娘さんが1週間ステイされると連絡がありました。
その翌年は娘さんと、娘さんの娘さんが来島しました。
その翌年は娘さんと、娘さんの娘さんと息子さんが来島しました。
その翌年は、娘さんの娘さんと息子さんがそれぞれパートナーを連れて来島しました。
家が整えば整うほど、大家さん一家が帰ってくる不思議。そのたびに私たちは離れに引っ越し、島内を案内したり、ごはんを食べたりお酒を飲んだり。もはやこのころになると、1週間程度の移動なら10分で用意できるようになり、知り合いに「なんかしょっちゅう引っ越ししてない?」とツッコまれる“島内フローライフ”が板についてきて
なんで私、ダンナのいとこの娘の彼氏と飲んでるんだっけ
というシチュエーションがだんだん面白くなってきました。
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自宅のようで自宅でない。他人のようで他人でない。大家さんとの不思議なシェア生活は、結局5年間つづくことになりました。けれど、そうした日々にも終わりがあって、再び「家をどうするか問題」と向き合うことになったのです…。
次回へつづく
text by ソーデー由美
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